思考を言語化するドリル

氾濫する川のように流れる情報に対し、浮かんでは消える思考を留め言語化するトレーニング

禁煙とダイエットと踊る小人

村上春樹の小説が結構好きだ。

 以下、村上春樹著『踊る小人』という短編のネタバレを含みます。とても短い話なので、ご興味がある方はまずは本編を読んでから、続きをどうぞ。

村上春樹 『螢・納屋を焼く・その他の短編』 | 新潮社

 f:id:kamo4:20170206235843j:image 

軽くあらすじを。

ものすごく乱暴にまとめるならば、

主人公の男が、夢の中で踊る小人(悪魔的なもの)に出会う。主人公の願いを叶えるために、条件(約束)付き契約で小人の力を借りることができるが、もし、その条件(約束)を果たさなければ、体を乗っ取られてしまうが、、、、はたして。

と、いうようなストーリーだ。

ここまでは、昔話によくある悪魔との契約的な展開。主人公が成功する『トム・ティット・トット』か、失敗する『人魚姫』とかね。

 

『踊る小人』は、ちょっと違う。

主人公はなんとか条件をクリアし、望むものを手に入れた。

でも、そこで小人はこう言った。

「しかしこれで終わったわけじゃない」と小人はつづけた。「あんたは何度も何度も勝つことができる。しかし負けるのはたった一度だ。あんたが一度負けたらすべては終る。そしてあんたはいつか必ず負ける。それでおしまいさ。いいかい、俺はそれをずっとずっと待っているんだ」

螢・納屋を焼く・その他の短編村上春樹/著  新潮文庫1987

 

ほんと怖い。このセリフほんと怖い。

小人は無限。何度だって力は貸してくれるけど、失うものはない。いつか主人公が失敗するのをただ、長い時待ち続けることができる。

だが、こちらはどうだ、リスクがある勝負をしつづけなくてはならない。終わりも安らぎもない。逃げられない。

 

理不尽すぎる。こわい。

 

実は、数年前までタバコを吸ってました。ガンガン喫煙者でした。今では、全くの非喫煙者です。

ある日を境に、自分の意思で非喫煙者に戻ったんですが、「禁煙」って、この小人との勝負とおんなじなんだなーと思った。

 

「禁煙」って、タバコを禁じてる状態だから、吸いたいのに我慢してる状態なんだよね?だから、いつか吸っちゃうかもしれないっていう、小人との戦いをつづけてる状態なの。そして、「禁煙何年」って数えるのは、小人との勝負して勝てた回数を数えてるだけなの。

寿命が尽きて、勝負に意味がなくなるまで続く、圧倒的不利な戦い、それが「禁煙」。

 

もし、タバコやめたいな、って思ってる人がいたら、「禁煙」なんてしないで、一瞬で「非喫煙者」になることをオススメします。小人と勝負しつづけても、絶対しあわせになれない。

 

ある意味、「ダイエット」も小人との勝負なんだけど、これはね、やっぱりしんどいね。「食べない」わけにはいかないから、「いい感じで食べ続ける」必要がある。

リバウンドの恐怖と戦いながら、寿命尽きるまで戦いつづけないといけないらしい。これまた理不尽だ。

ただ、1本でも吸ったら負けの「禁煙」とは違って「食べすぎない」みたいな程度の問題になるから、ちょっと負けてもリカバリできそうなのが救い。

 

ちなみに、このブログを始める時に、継続に価値があるものをあえて始めるのは、あの小人に自分から勝負をしに行ってる気がして、とても怖かった。

 

21日目の勝負。なんとかまだ勝ちつづけてるけど、あの小人が森の中からこっちを見てる。