禁煙とダイエットと踊る小人
村上春樹の小説が結構好きだ。
以下、村上春樹著『踊る小人』という短編のネタバレを含みます。とても短い話なので、ご興味がある方はまずは本編を読んでから、続きをどうぞ。
軽くあらすじを。
ものすごく乱暴にまとめるならば、
主人公の男が、夢の中で踊る小人(悪魔的なもの)に出会う。主人公の願いを叶えるために、条件(約束)付き契約で小人の力を借りることができるが、もし、その条件(約束)を果たさなければ、体を乗っ取られてしまうが、、、、はたして。
と、いうようなストーリーだ。
ここまでは、昔話によくある悪魔との契約的な展開。主人公が成功する『トム・ティット・トット』か、失敗する『人魚姫』とかね。
『踊る小人』は、ちょっと違う。
主人公はなんとか条件をクリアし、望むものを手に入れた。
でも、そこで小人はこう言った。
「しかしこれで終わったわけじゃない」と小人はつづけた。「あんたは何度も何度も勝つことができる。しかし負けるのはたった一度だ。あんたが一度負けたらすべては終る。そしてあんたはいつか必ず負ける。それでおしまいさ。いいかい、俺はそれをずっとずっと待っているんだ」
『螢・納屋を焼く・その他の短編 』村上春樹/著 新潮文庫1987
ほんと怖い。このセリフほんと怖い。
小人は無限。何度だって力は貸してくれるけど、失うものはない。いつか主人公が失敗するのをただ、長い時待ち続けることができる。
だが、こちらはどうだ、リスクがある勝負をしつづけなくてはならない。終わりも安らぎもない。逃げられない。
理不尽すぎる。こわい。
実は、数年前までタバコを吸ってました。ガンガン喫煙者でした。今では、全くの非喫煙者です。
ある日を境に、自分の意思で非喫煙者に戻ったんですが、「禁煙」って、この小人との勝負とおんなじなんだなーと思った。
「禁煙」って、タバコを禁じてる状態だから、吸いたいのに我慢してる状態なんだよね?だから、いつか吸っちゃうかもしれないっていう、小人との戦いをつづけてる状態なの。そして、「禁煙何年」って数えるのは、小人との勝負して勝てた回数を数えてるだけなの。
寿命が尽きて、勝負に意味がなくなるまで続く、圧倒的不利な戦い、それが「禁煙」。
もし、タバコやめたいな、って思ってる人がいたら、「禁煙」なんてしないで、一瞬で「非喫煙者」になることをオススメします。小人と勝負しつづけても、絶対しあわせになれない。
ある意味、「ダイエット」も小人との勝負なんだけど、これはね、やっぱりしんどいね。「食べない」わけにはいかないから、「いい感じで食べ続ける」必要がある。
リバウンドの恐怖と戦いながら、寿命尽きるまで戦いつづけないといけないらしい。これまた理不尽だ。
ただ、1本でも吸ったら負けの「禁煙」とは違って「食べすぎない」みたいな程度の問題になるから、ちょっと負けてもリカバリできそうなのが救い。
ちなみに、このブログを始める時に、継続に価値があるものをあえて始めるのは、あの小人に自分から勝負をしに行ってる気がして、とても怖かった。
21日目の勝負。なんとかまだ勝ちつづけてるけど、あの小人が森の中からこっちを見てる。